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セラピューティック・ケアとの出会い
 理事長、秋吉が中途失明の義母を在宅で介護し始めてから35年。認知症の進んだ晩年の数年はとても言葉では言い表せないつらい日々でしたが、それゆえに自分を助け、支えてくれた方の有難みも感じたと言います。
 義母を見送ったあと、秋吉は、そのときお世話になった福祉施設の方々に恩返しをと、感謝の思いからビューティケア(美容ケア)のボランティア活動を始めました。ボランティアの活動を通して笑顔に出逢える喜びを知った秋吉が活動を続けるうち、活動する仲間も増え、1998年には赤十字奉仕団 日赤福岡県支部特殊奉仕団を立ち上げ、その委員長に就任。しかし6年ほど活動を続けたころ、訪問先の施設にご迷惑をかける当時のそのケアのやり方に疑問を持つようになります。そこで秋吉はその課題を解決するために、1999年、その美容ケアの母国であるイギリスの赤十字社の門を叩きました。
 しかしその時点で、英国赤十字社ではもうその美容ケアは行っておらず、新たに「セラピューティック・ケア」という耳慣れないケア法が行われていました。それが、秋吉とセラピューティック・ケアとの出会いでした。


日本におけるセラピューティック・ケアのはじまり
 英国滞在中、秋吉は、ロンドンから列車で1時間半ほどのところにある英国赤十字社ケント支部において、マキシム・ウエルズ(Maxime Wells)女史から、日本人として初めてセラピューティック・ケアのレクチャーやスキル指導を受けました。そのとき秋吉は、これこそが自分の本当に求めていた心のケアだと、まさに雷に打たれたような衝撃と感動を受けたと言います。
 さらに、ノースウィック・パーク・ホスピタル等での英国赤十字社のボランティア活動にも参加。また英国赤十字社のもう一つのメンタルケアである「スキンカモフラージュ・サービス」の研修も受講し、そこでスキンカモフラージュ・サービスとセラピューティック・ケアの開発者であるサイアン・スコット女史とお会いしました。そして約2週間後の帰国の際、秋吉がセラピューティック・ケアに強い興味を示していたのを見た同女史から、「日本でも普及してほしい」とモジュール(テキスト)とVHSビデオを託されたのをきっかけに、日本で普及していく決意を固めたのです。


日本に芽生えたセラピューティック・ケア ~たった1人、ゼロからのスタート~
 帰国後、秋吉は地元・福岡の病院や福祉施設でセラピューティック・ケアのボランティア活動を始めるかたわら、その良さを知ってもらうために各地で講習会を開催し、日本での普及に奔走。共に活動する仲間を少しずつ増やしていきました。
 そのころ日本にはセラピューティック・ケアについての資料すらなかったため、秋吉はツテをたどり、スコット女史から託されたモジュールを翻訳・製本して日本語版テキストも製作しました。当時一主婦にすぎなかった秋吉が手探り状態でゼロから育てていくことにはさまざまな苦労が伴いましたが、それでもケアの持つ力に共感する方は徐々に増えて行きました。
 そして現在。秋吉がたった1人で始めたセラピューティック・ケアは15年を経た今、福岡の小さなボランティア団体「セラピーケア・ネットワーク」から2005年にNPO法人となり、今では北海道から沖縄まで800名超の会員を抱える組織となりました。活動の公益性と組織運営の適切さを認められ、2014年には福岡県による最初の認定NPO法人も取得しています。
 また、英国でのようにホスピスや病院だけでなく、子育て支援や学校の授業支援、被災地支援など施術の対象者や場面を広げ、さらに大学教授との共同研究による科学的検証を行うなど、英国から持ち帰ったセラピューティック・ケアの種は日本で大きく育ち、花を咲かせています。


英国赤十字社と当協会との交流
当協会は約3年に一度、会員のスキルアップと交流を目的に、定期的に英国赤十字社を訪問しています。

○2002年
日本での普及を始めてから3年後の2002年、日本版のテキストの完成をご報告するために訪問。当協会会員と日本赤十字社職員計25名で訪れ、全員でセラピューティック・ケアの研修(有料)を受けました。

○2006年
NPO法人設立翌年の2006年、ケント支部を訪問。セラピューティック・ケアのポイントレッスンを受けたほか、セント・クリストファーホスピスも視察しました。

○2008年
理事長と講師がケント支部を訪問し、御礼と友好のしるしとして、福岡在住のノーベル財団認定作家・洋画家の青沼茜雲先生の油絵を贈呈。この訪問は、ケント&サセックス支部のニュースレター上でも紹介されました。

○2011年
会員と韓国セラピューティック・ケア協会の会長、計20名で訪問。英国赤十字社でも、2009年から新たにフットケアを取り入れてありました。この訪問は、ケント&サセックス支部のニュースレター上でも紹介されました。
 
なお2011年に英国赤十字社を訪問した際、セラピューティック・ケアは、アロマセラピー、リフレクソロジー、ミュージックセラピーなどと同様、同社のボランティアとして活動する際には必ずマスターしなくてはならないスキルとして位置づけられていました。

○2016年
北海道から九州まで会員25名で英国赤十字社本部のウィンブルドンオフィスを訪問。
実技を中心に終日みっちりと研修(有料)を受け、修了証と記念品をいただきました。
また当協会の活動についてご紹介し、英国赤十字社のロゴ使用の許可もいただきました。
英国赤十字社では数年前から名称が「Hand,Arm and Shoulder Massage(HASM)」に変っており、
緊急支援・自立支援優先の観点からレッグケアが外れていました。


セラピューティック・ケアの未来
 セラピューティック・ケアは生老病死どの場面においても、手のひらだけで心身を癒すことができるスキルです。現在では、広い対象の方々の心のケアへと範囲が広がっています。また家庭介護だけではなく、看護・介護職のあらゆる場面に活用できるスキルのひとつとして、看護師、介護ヘルパーなど医療・福祉の専門職の方々にも習得され、現場で役立てられています。日本へと持ち帰ったセラピューティック・ケアの種は海をわたり、さらに韓国や台湾でも芽を出しました。
 年齢も性別も国籍も問わない、両手だけで、いつでも、どこにでも、誰にでも短時間でできる心のケアへの必要性は今後ますます高まってくることでしょう。このケアを次世代へ、そしてその先へとつなげ、さらに発展させていくことが、私たちの使命だと考えています。