会員専用ページトップ 秋吉美千代×城戸由香里 スペシャルトーク Long Ver.(全6回)

目次

〉 第1回:理事長交代の背景
〉 第2回:初代理事長として、これまでの歩みを振り返って
〉 第3回:理事長になって1番驚いたこと
〉 第4回:新しい体制で取り組みたいこと
〉 第5回:事例とエビデンス
〉 第6回:ケアを持続することで効果があがる

第5回:事例とエビデンス

(秋吉先生の思いを繋ぐ理事長として描く未来図について)

城:あと、私個人の興味で、「なんでだろう」っていう問い。「なんでだろう」って、結局、科学的立証実験の部分なんですけど、気持ちよくなるのは、体の中のホルモンがどうなるからなんだろうとか、そこは自分の中でまだまだやりたいことの1つで、まだ心の中でずっと芽は潰れてないんです。

先生に現場のことを少し協力いただきながら、私なりのライフワークで実験とか研究は続けたいので、それが先生の未来図とプラス、私のおまけの未来図みたいな感じでしょうか。

秋:そこも一緒ね。エフルラージュの説明1つにしても、『なぜこの位置からスタートするのか』とか、『なぜハンドじゃなくてネックからするの?』とか、全部『なぜ』が頭に浮かぶんです。

だから今まで何度かやった立証実験も私が言い出したことで、今は、どういう形でどういう立証実験をしようかというのが私の大きな課題です。これを解決しないと、説得力がないという思いがずっとあって。スキルも大事だけど、裏付けも大事だよねって。

城:先生が「なぜ」と思うことと私も「なぜ」と思うことは、秋吉先生と確認したことはないんですけど、より有効な方法を選んでいきたいです。

『なんとなくこうこう』よりは、『生理学的にこうだから、この時間、こんな圧力でした方が効果出るよね』って、やっぱり探究心があるからだと思うんですよ。なんとなく、『今までこんな風に触っていたから気持ちいいからこうよね』っていうことだけじゃなくて、『こうすればより生理学的に分泌が変わる』ということを知れば、もっと効率的に、もっと効果が出る何かを見つけられる。

秋:ボランティアで色んなところに行くと、『セラピューティック・ケアには導眠効果があるよね』って言ってもらえるんだけど、じゃ、ホルモンがそうあるのか、何がどうあるのかっていうのをすごく知りたい。でも、こっちが知りたいこととできることとは違うんですよね。深部体温とか舌下アミラーゼの測定とか、これまでも色々と研究をやりましたけど、いろんな条件や制約があって、思うような数字は取れない。

それに、エビデンスという表現ひとつにしてもドクターと学者は違うんです。『ま、一つの事例じゃないですか?エビデンスって1万人とか2万人とかですよ』って言われたら、ボランティアでとてもそんなデータは取れないから、いろいろやりたいと思ったってダメよねとなる。

城:なるほど。

秋:だいぶ前に宮崎の施設に行った時、何をしても全然ものを言われない、表情も変わらない高齢者がおられました。その方にネック&ショルダーケアをフルバージョンでしたら、「ありがとう」って言われたんですよ。

そしたらね、スタッフの人が駆け寄って来て、『あんた、今なんて言った?』って。そしたらその方が『お礼を言いましたって、ありがとう』って。『気持ち良かった』って。

スタッフの剣幕があんまりすごいので『どうしたんですか』って聞いたら、その方はもう何年も、ものを言われてなかったそうなんです。『これを「自発的発語」っていいます』って、教えてもらいました。

心が元気になられたんでしょうね。その方はその後、草取りを始められて。『外で草とりよんしゃった』ってスタッフは大騒ぎ。みんな喜んでいたんです。

城:素晴らしいですね。

秋:本当は、その方の日頃の状態を踏まえた上で、セラピーをやって、日頃の状態の中できちっとしたデータを取っといて、これだけのことをしてこうなったって、いくつか他のところに出れば、事例報告ができるんですよね。欲張って色んなことを書かなくても、『自発的発語が見られた。その後、草取りをした。日頃外に出られない人です』とか書けば、1つの事例になるでしょ。それを1週間後にやってみたとか、続けてやっていかんといかんわけですよ。でもその時はたまたま宮崎に行っただけで、定期的に行ってやったりはできない。

1週間持つかどうか見て欲しかった、その方に1週間後やってね、ってスタッフに言いたかったんだけど、でもね、スタッフも仕事があるしね…。

だから、データを取りたいけど、取れないよね。スタッフも仕事してるから、そんなことやっとられん。だからそれを1万人も2万人も取れって言われたって、そうじゃないとエビデンスって言えないって言われたら、もう不可能です。でも学会って、そういうところですもんね。

城:だからそこも「なぜ」「なに」で興味がある部分ですよね。

秋:私はずーっとそれを抱えながらいるけど、あんまりそれを出すと、『そげんこと調べんでも、喜びんしゃったからよかと』って言われてしまう(笑)。

私、自己満足って言い方するでしょ。『ボランティア行ったら喜びんしゃった』って。

でもね、一生懸命ボランティアしてもらって、『あんた下手ね』って誰が言いますか? みんな『ありがとう』って、『あんたきつかったらやってあげようか』って言われますよ。みんな喜んでもらえる。大事なことです。でも私は、『この技術でもっと上手になろう』ってみんなに思ってほしいんです。

 

(収録日:2022年3月16日/ 聞き手:水上)